難度海どんぶらこブログ

つれづれ書いていきます。

2023年度病理専門医試験 逆評定

「喉元過ぎれば熱さも忘れる」という言葉があるように、大学入試、医学部定期試験、CBT、OSCE、卒業試験、医師国家試験など、今まで様々な関門を潜り抜け、その度に苦しんできたわけだが、一度それを突破してしまうと途端に興味を失ってしまい、試験や教育制度の問題点などについて考えることをやめてしまうものだ。「勝って官軍」・・・とは違うか?

 

とにかく批判的な視点は、資格試験に受かってしまうと途端に薄れてしまう。既得権益に乗っかっていくので精神的にも対外評価も安定が得られる。しかし、今後も試験自体は毎年毎年続いていくのである。今後の人たち(僕も落ちてるかもしれないし)のために、そういう視点からの意見も薄れないうちに残しておきたい。

 

①病理診断クイックリファレンスについて

本年度は2018年に出版された病理診断クイックリファレンスの改訂が行われ、「病理診断クイックリファレンス2023」が改訂された。ちなみに書店の人を通じて文光堂に確認したのだが、「病理診断クイックリファレンス2023」という名前はまるでこれから毎年改訂が行われて「〜2024」「〜2025」が出版されていくかのような誤解を与えるが、その予定は文光堂には全く無いとのことである。数年間はこの本が試験対策のバイブルになっていくのは間違いない。

そもそも、東大の目の前にある文光堂は、コロナ禍前に1階の実店舗部分を閉めてしまったりしていて、それほど景気の良さそうな出版社には見えない(失礼)。毎年のようにクイックリファレンスを改定していくマンパワーは、文光堂にも、病理学会員にも存在しないだろう。

しかし病理診断クイックリファレンス2023には、例えば隆起性皮膚線維肉腫が第17章(骨・軟部)と第18章(皮膚)で被っていたり、孤立性線維性腫瘍も第17章と第19章(神経)で被っている。ご愛嬌と言えばそれまでだが、執筆依頼の段階で、分野毎の取りまとめを行なっている病理医の先生に、縦割りの丸投げになっている可能性がうかがえる。横紋筋肉腫のページでは小児に多い腫瘍であることに一切触れられていないなど、ピアレビュー(使い方合ってる?)がやや不足している印象もある。執筆者の著作権などの問題もあるのかもしれないが、過去の2018年のものがせっかく存在しているのだから、変えるべき言い回しは変え、残すべき文章や写真は残すというような編集方針がとられないのは、勿体ないことだなと思う。そもそも学問は先人の知恵の蓄積によって成り立っているのであり、それらをうまく利用してこそな気もするのだが、病理学会に限らない話、アカデミアの人間は自分のオリジナルの文章を公開してウケを取ってナンボだという風潮もあるため、せっかくよいアトラスが生まれても執筆者が鬼籍に入ったり、やる気を失ったりするとそれっきりになって改訂されず絶版になることが多い。非効率極まりないと個人的には思っている。

話が逸れたが、2023年度の病理専門医試験は正直病理診断クイックリファレンスから9割以上の設問が出題されていると言っても過言ではなかった。胞巣状軟部肉腫など、過去出題されたがクイックリファレンスに載っていないものであったりとか、肺内リンパ節、気管支原生嚢胞なども出題はされたが、他の本で勉強したからといって答えられる答えられないという差はつかなかったと思われる。来年以降どうなるかはわからないが、少なくとも今年度は結果的に、病理診断クイックリファレンスを買って穴が開くほど読み込めよという出題側の意志が反映された試験だった。

医局によっては勤務先や大学に受験者の一つ上の世代がいないということも十分あり得る。受験者のなかにはまわりの「大先輩」たちから、「俺の頃は組織病理アトラスしかなかったよ」とか「私の時は彩の国なんちゃらセミナーの本からよく出たよ」「病理組織の見方と鑑別診断がイイよ」などとアドバイスをもらい、鵜呑みにしてそれらを軸に勉強して、病理診断クイックリファレンス2023の読み込みがやや不足してしまった人もいただろう(僕もそのテの一人で、腫瘍鑑別アトラスなどを読んだりもしてしまった)。

本年度の試験から言えることは、やはり出題者たちは学会のお偉いさんたちなのであり、素直にその時期にホットな教材から出題してくるということである。たとえ過去のバージョンの方が記載がわかりやすかったり、綺麗な写真が使われていたとしても、チラ見程度にしておいて最新のものをしっかり読み込む方がコスパはいいと思う。

 

②病理医の地域偏在と給料事情と専門医試験の勉強(専攻医教育)についての雑多な考察

日本人の人口分布から言っても仕方ないことだが、学会のお偉いさんたちは地域的にも関東や旧帝大に集中している。かつては川崎医科大学東海大学などに著名な先生たちが若手の頃集まっていたなどの話もあったりするが、現代では地域偏在はかなり深刻になっていると思う。大きな都市圏に住んでいると、意外とその外側のことは見えなくなるものである。地方の病理専攻医は貴重な戦力であり、病院の仕事にガッツリ従事させられていることも多い。したがって都会の病理専攻医のように大学院と専門研修を並行したりというのはあまり現実的ではなく、土日も病院の仕事に従事して教育機会への参加を逃していることも多い(ただ、都会の専攻医のほうが実際は薄給で遠い地域に外勤を強いられ、研究の手伝いもさせられたりするので一長一短だが)。とにかく地方はマンパワーがないので大学病院ないし地域全体ですら各臓器の専門家が揃っていないことは多い。

そこで専攻医は本来様々な講習会に参加したりなどして研鑽を積む必要がある。ここまでは仕方のないことである。

ただ問題がある。

病理専攻医は給料が(他科と比較して)安いのである。そして剖検が入れば最優先で担当させられるため(まともな責任感があれば)おいそれと土日を使って旅行に行ったりはしづらいのである。

はっきり書いてしまうが、病理専攻医は国公立大学勤務なら額面給料25-30万円程度、住宅手当やボーナスはない。大学からの手取りは時間外を含めて20万円前後である。週1回の外勤が標準と思われるが、医局によっては病理医なのに場末の療養型病院の宿直を斡旋されていたりするため、バイト代は地域で変動がある。ツワモノは自分で派遣会社に登録して健診や献血や当直バイトに勤しんでいるが、その元気がない専攻医も多い。仮に大学勤務で週1回6万円のバイトに行っているとすると、額面年収は30x12+6x50=660万円程度である(地方の市中病院勤務なら800〜1100万程度だが、病理専攻医はアカデミアと切り離しにくい存在なのでその年収が維持されることはやや難しい)。

世間一般の水準的には高めの年収かもしれないが、同年代の医者の中では最底辺と言ってもいいだろう。正直、同い年で大企業に就職した人、公務員になった人、教師になった人などとは大差無いどころか、福利厚生面(企業年金労働組合、人間ドック受診助成、有休消化、盆正月休み)でもボロ負けの存在である。

また話が逸れてしまったが、病理専攻医は以上の理由から、しみったれていることも多い。はっきりいって勉強のために何万円もする講習会に嬉々として参加したり、地方で行われる学会まで足を伸ばすほどの旅費も時間もない。いや、実際はお金も時間も多少はあるのかもしれないが、なんか学会や都会の病理医たちに金をむしり取られているだけという印象が拭えないのである。同世代の高学歴のなかで対して年収も高く無いにも関わらず、土日を潰してお金を払って勉強に励む聖人はそこまで多く無いのが実情である。逆にそういう聖人はそもそも実家が太かったり、よく出来た奥さんと結婚していて仕事に集中できる環境が存在していたり、あるいは常人には理解し難いレベルで仕事に命を懸けている「アカデミアサイコ野郎」だったりする。そういう例外超人の集まりで構成された集団では、ほどほどにお金を稼いでほどほどに休みたい常人の方が浮いてしまうような事態も、この業界ではよく見る光景である。

専攻医の勉強にもそういう傾向があり、名前は伏せるが、近年では某大学を中心としたオンライン若手勉強会のようなものが主催され、一部で好評を博している。はじめはたしかに若手の若手のために運営されている小さな集まりという印象だったが、そのうち規模が大きくなると有名な教授や有名大学の講師クラスが講師に招かれることも多くなったりしている。月額の会費を払って会員になる方式がとられており、まあ言ってみればオンラインサロンなのであるが、いつの間にか地位を確立して病理と臨床に広告をうったりもしている。会費はめちゃくちゃ高いというわけではないが、著しく安いということもない設定である。年収1000万ぐらいの人たちや普段サブスクリプションサービスにお金を払うことに抵抗のない人たちであればポイっと払える額かなと思われる。

なお、僕はAmazonプライムにもNetflixにも課金したことがないぐらいケチなので、参加したことは一切ない。それはお前がケチなだけだろという批判はもっともだし、そのオンライン勉強会が儲けのあまり出ない範囲で(ひょっとすると赤字で?)運営されているかもしれないことは重々承知なのだが、「いつまで内輪から小銭を巻きあげるつもりなんだ」という感じは常にどうしても思ってしまう。そもそも僕らは病理学会に毎年安くはないお金を払っている従順な会員なのであり、教育を受ける機会をもっと設けてもらってもいいのではないかと考えてしまう。学会とは別に毎度毎度お金が必要になるのはあまり気持ちのいいものではない。仮に必要なお金だったとしても、学会員から徴収するのではなく、学会員の「仕事」で恩恵を受ける人たちから協賛を得る仕組みを構築してほしいと思う。病理診断の仕事の性質上、製薬企業からの協賛は正直期待薄だが、そのそも内科や外科の診療の一定部分を病理診断は肩代わりしているのであり、汚い言い方だが間接的にでもお金を引っ張ってくることができる相手はいる気がする(検査関連の試薬や機器の会社もそうだが)。そもそもこの国の病理医は、人体の研究をしながら片手間で診断をやっていた過去の歴史があるため、病理診断に診療報酬がしっかりついたり、病理診断科が標榜できるようになったりしたのもかなり最近のことである。いまだにエクストラな業務である剖検をタダで引き受けたり病院の持ち出しで費用を工面していたりするのも、その時代から続く悪習と言ってもいいだろう。お金の話が好きではない人が多い(実際は裕福な開業医出身の子息であったり学者肌だったり)のは承知しているが、お金の面で病理医たちをもっと支援していかないと、これからインフレが進んで相対的に医者の給料が減っていく時代において大規模な講習会などは参加者が集まらず廃れていく可能性があると危惧している。そもそも医者の給料が相対的に低くなったら内科や外科の医者も少なくなるし、貧乏な病理に来る若手なんてもっともっともーっと減るだろうけど。

 

③病理専門医という資格について

病理専門医は実は診療報酬上あってもなくてもよい資格になっている(病理診断に5年以上または7年以上専従していることが証明できれば良い)。これは例えば名大第二病理学講座出身者など(聞いた話でうろ覚えだけど間違っていたらすみません)のように、基礎系講座出身者のお偉いさんだと学会専門医試験を経ずに偉くなっている人たちもいることに起因していると思われる。専門医を持っていなくても診断できるひとはこの世に意外とひっそり隠れているものです。逆も然りで、専門医持っていてもまともに働いていない人たち、周りにいるんじゃないですかねどの地域でも。

ちなみに2023年病理専門医試験の運営スタッフは東大病理関連ないし慶應病理関連の教授や講師クラスであったりその関連私大の大学院生の先生などと、学会事務局の方々であった(当然と言えば当然なのかも)。土日を丸一日つぶして試験監督とか問題用紙配りであったり、受験生の引率などをしている光景は少しなんというか・・・趣がありましたね。

試験専門スタッフの育成みたいなことも日本専門医機構サマが引き受けてくれればいいのにね。現状民間の会社へ受験受付サイト作成などを委託していたりするのだろうし、相当お金がかかって中抜きされている気がしますね。本当のところは知らんけど。

 

④希少がん病理診断事業および病理情報ネットワークのサーバ移転作業について

8月16日から8月31日にかけて希少がん病理診断事業(希少がん病理診断支援検討委員会 委員長 佐々木毅先生 システム担当 藤井丈士先生)および病理情報ネットワーク(病理情報ネットワーク管理運営委員会 委員長 宇於崎宏)のサーバが、現行のハウジングによるサーバ保守契約満了に伴うクラウド移設作業のため、利用停止されました。

正直お盆休みや年末年始に東名高速集中工事をやるようなものでしたよね。もっともバーチャルスライドで専門医試験受験生が勉強したくなるはずの、試験前の2週間に丸かぶりでした。九月1日は移動日にしている先生が多かったと思うので実質完全に受験生をいじめる移設作業日程の組み方でしたね。

小児腫瘍や脳腫瘍といった希少疾患は、一般市中病院であったり一部のデータ管理の杜撰な弱小大学病院では、典型像を確認することが難しいです。そういうときのためにあるサイトじゃないのかよ・・・って感じでした。過去の剖検問題のバーチャルスライドも病理情報ネットワーク内に保存されていたので、受験生は大変でした。一応完全にサイトが停止していた期間は数日程度だったように思いますが、バーチャル画像が開けたり開けなかったり読み込みがすごく重かったりというような不安定な状況が、試験直前までずっと続くこととなりました。いやはや、どうもありがとうございました。どうなってんねん。

 

ほんとはもっと色々書きたいけど全然話がまとまらないまま、だらだら書き連ねてみました。まとまりがないうえに、不満や愚痴や自分勝手な意見を吐き出すばかりで気分の良くない文章だと思いますが、問題点を忘れないようにするメモ代わりでもあるので、もしこの文章を偉い人が見かけて憤慨されても、場末の頭も性格も悪い若手の戯言だと思ってどうか許してください。どうせメモなので、怒られたら消します。

もちろん良いところもたくさんあるよ、病理診断科や病理学会、たぶん。